ブランドアイデンティティの強化で、組織の求心力を高める

三井情報株式会社は、ICTを基軸に多様なソリューションを提供する三井物産グループの中核企業です。2023年には経営理念体系を再整理し、パーパスとして「ナレッジでつなぐ、未来をつくる」を掲げました。さらに第八次中期経営計画では、「進化」と「コラボレーション」を通じて「残すに値する未来」を築くことを掲げ、人的資本や経営基盤の強化にも力を入れています。

こうした変化の中で、同社が改めて向き合ったのが、自社のブランドアイデンティティでした。パーパスの浸透に向けてタウンホールミーティングなどを重ねる一方で、従来のロゴが、現在の三井情報やこれから目指す姿を十分に表現しきれていないのではないかという問題意識が社内で高まっていったと、三井情報の宮浦正幸氏は説明します。

「これまで使っていたロゴは、2007年に三井物産の子会社であるネクストコムと三井情報開発が統合した象徴という位置づけでした。それ以降に統合した会社もありますし、中途入社の社員も増えています。だからこそ、今の三井情報の姿やこれからの方向性を表す、新しいロゴが必要だと考えました」(宮浦氏)。

三井情報株式会社
CSO統括本部 経営戦略企画部
広報・ブランディング推進室 室長
宮浦正幸氏

背景には、インナーブランディング上の明確な課題もあります。三井情報では、社員一人ひとりが主体的にキャリアを築く「キャリアオーナーシップ」を重視し、成長を後押しする施策を進めてきました。一方で、成長支援だけでは意識が外へ向かい、組織としての求心力が弱まる懸念もあったと、三井情報の神野洋介氏は明かします。

「社員の成長を促すだけでは、外に目が向いてしまい、遠心力が働いてしまう可能性もありました。だからこそ、パーパスに共感し、三井情報で働く意義を実感できるようにするため、コーポレートロゴを中心としたブランドアイデンティティの強化が必要だと判断したのです」(神野氏)。

三井情報株式会社
CSO統括本部 経営戦略企画部
広報・ブランディング推進室 マネージャー
神野洋介氏

ロゴ決定の社員投票を通じて、パーパスを浸透させる

ロゴ刷新にあたって論点となったのが、「MKI」と「三井情報」をどう両立させるかという点でした。英文社名である「MITSUI KNOWLEDGE INDUSTRY」の略称として親しまれてきた「MKI」と、日本語社名としての「三井情報」の双方に、それぞれ異なる歴史や愛着があったからです。だからこそ同社は、どちらか一方に寄せるのではなく、両方を自社のアイデンティティとして捉え直しました。

プロジェクトでは、揚羽がブランド調査やヒアリングを踏まえて複数のロゴ案を提案。その上で、社内の意見を反映しながら絞り込み、社員投票を実施しました。単に“好きなデザイン”を選んでもらうのではなく、それぞれの案にどのような思想が込められているのかを丁寧に伝え、パーパスとの整合性を考えながら判断してもらうという丁寧なプロセスを踏んでいます。

さらに投票結果は、単なる多数決としてではなく、社員の意見を把握するための重要な判断材料として活用されました。社員からの支持傾向や寄せられたコメントも踏まえながら議論を重ね、経営判断のもとで最終決定を行ったのです。

新しいロゴに込めた思いを、揚羽の板倉マサアキは次のように述べます。「新しいロゴは、パーパスである『ナレッジでつなぐ、未来をつくる』をベースにして、ナレッジを表す複数の青い図形が集まり、重なり合うことで『MKI』が形作られるストーリーを表現しています。さらに、シャープなフォルムとカラーリングによって、先進性を感じさせるデザインに仕上げました」(板倉)。

株式会社揚羽
ブランドコンサルティング部
シニアコンサルタント/クリエイティブディレクター
板倉マサアキ

ロゴはもちろん、単なるマークではありません。そこに込められた意味を社員自身が理解し、語れる状態をつくることが重要です。そのため、社員投票のプロセスそのものが、パーパスへの理解を深める機会として機能しています。「一部の人だけで決めるのではなく、社員に投票してもらうことで、自分たちも決定プロセスに関わったという実感を持てますし、パーパスについて改めて考えるきっかけになると考えました」(神野氏)。

ロゴ策定にとどまらず、ブランドガイドラインを整備

今回の取り組みの特長は、ロゴを策定して終わりにしなかった点にあります。三井情報と揚羽は、ロゴマニュアルにとどまらない約70ページにわたるブランドガイドラインを整備。ロゴマニュアルのような表示ルールだけでなく、ブランドの考え方や価値観、表現の基準までを一つにまとめました。

ブランドガイドラインでは、経営層や現場社員へのインタビューを基に、三井情報らしさを表すブランドボイスとして「Honest(誠実・正直・まじめ)」「Kindness(親切・人情・慈愛)」「Advanced(先進的・進歩的)」の3つを定義しています。さらにロゴを構成する長方形のモチーフを「ナレッジピクセル(Knowledge Pixel)」として展開し、名刺、封筒、背景画像、待ち受け画面、オフィスサイン、ノベルティなどへ一貫して反映できる仕組みを整えました。

「ロゴだけでは表現し切れない世界観を、『ナレッジピクセル』というグラフィックエレメントまで含めて定義できたことが大きかったと思います。社員の皆さんが日常的にブランドの世界観に触れ、自然に使える状態をつくることで、ブランドは浸透していくはずです」と揚羽の板倉は熱を込めて語ります。

揚羽にとっても、本プロジェクトは一方的な提案では成り立たないものでした。細部まで率直に議論し、違和感があれば互いに言葉にしながら、よりよい形を探っていったと揚羽の小林夏帆は振り返ります。「三井情報の皆さんは、違和感や意見の違いをきちんと伝えてくれました。それを単純に否定で終わらせず、どうすれば実現できるかを一緒に考えられたことが、結果としてよりよい提案と成果につながったと思います」(小林)。

株式会社揚羽
ブランドコンサルティング部
コミュニケーションプランナー/イベントプロデューサー
小林夏帆

新たなブランド資産を活用し、企業価値を発信する

新しいロゴとブランドガイドラインは、既に社内の様々な場面で活用されています。会議室の壁面、パソコンの壁紙、ネックストラップ、オンライン会議の背景、展示会用Tシャツ、ノベルティまで、社員が「見ない日がない」と感じるほど露出が高められています。

特に反響が大きかったのが、グラフィックエレメントの使いやすさでした。従来はロゴ単体の使用にとどまっていた場面でも、新たな表現が可能になったことで、現場から「このエレメントを使いたい」という声が自発的に上がるようになったといいます。展示会のノベルティやTシャツにグラフィックエレメントを利用したいというリクエストも増えており、ブランドが“配布されたもの”ではなく、“使いたくなるもの”へ変わったと、三井情報の世良真理氏は笑顔とともに話します。

「営業活動でも、オンライン会議でも、背景にロゴやエレメントが入ることで、自分たち自身がブランドを意識するようになりました。相手に見せるだけでなく、自分もロゴを意識して前向きになるような気がします。社員は皆、同じように感じていて、様々な活動で積極的に使っていますし、シールを作って欲しいという要望もありました」(世良氏)

三井情報株式会社
CSO統括本部
チーフマネージャー
世良真理氏

ロゴ刷新は、単にビジュアルを新しくするための施策ではありません。パーパスを社員一人ひとりが自分ごととして捉え、日々の業務や顧客との接点で自然に体現できる土壌を育むこと。その起点として、新たなコーポレートロゴは確かな役割を果たしています。三井情報はこれからも、このブランド資産を原動力に、自社の価値をより具体的に社会へ発信していく考えです。

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